航空宇宙・防衛装備品や輸送機械、産業・工作機械、特注品・カスタム品など、高度な技術が使用され、高価な、あるいはユニークな部品、モジュールで構成される工業製品についてトレーサビリティのニーズとブロックチェーンでどんな仕組みが作れそうかを想定します
1.模倣品対策としてのトレーサビリティ・ニーズ
トレーサビリティ検討分野
最終生産者が、設計時に素材や部品を厳選し、サプライヤーも指定して、調達BOMを書くことがあるでしょう。このとき、指定のサプライヤーの素材、部品が正しく調達され、モジュールとして組み上がっていって、設計書通りの真正部品による最終製品となったことを証明したい、偽物や不正な再利用部品が紛れていないことを確認したいというニーズもあり、品質管理、検品作業が行われます
また、製品が運用されると、運用記録やメンテナンス記録が蓄積されます。この製品を中古品として転売するとき、買い手は過去の運用履歴を取りたい、部品の真正性証明を取りたい、メンテナンス記録と、それが正しくメンテされたかの証明を取りたいと考えるでしょう。記録の有無で、中古価格も変わりそうです
大きな機械は、部品も高価なので、部品を修理(MRO)して、他の機械に再利用する、中古部品の使いまわしや流通市場がある時、過去の運用履歴とMROが正しく行われたかの証明が欲しいことでしょう
こうしたニーズは、製品、部品のトレーサビリティとして括れるプロセスです
設計、調達、生産、納品までのリスク
設計書、部品表(BOM)で素材、部品の仕様や規格、また、サプライヤーを決めて、予定通り調達する際の製品、部品のトレーサビリティに関する要点は以下のように挙げられます
- 調達先(製造者)選定
- 信頼性、安定性、納入実績、経営リスク(経営陣、財務、立地、設備、人材ほか)
- 真正品であっても、不具合時には、製造年月日、製造ライン、製造ロット、使用部品・素材(ベンダー)など特定できる必要
- 品質管理、適切な仕入れ数量と納期の確保
- 技術力、製品・サービスのスペック、生産能力・規模・精度、保証(瑕疵担保期間、障害対応ほか)
- 調達先(流通)選定・・・模倣品や不正再利用品の紛れ込むリスク
- オリジナルの製造者の正規販売代理店から調達する
- オープンマーケットから調達しない
- 役務(サービスや作業)の調達先選定・・・認定されない作業者、国・地域から調達するリスク
- 国の経済安全保障政策でも、社会基盤業者の役務の調達について制度化がすすめられている
- 設備のサブモジュールや、設備によるサービスを外部から調達する場合
- 設備の維持管理作業・サービスを外部に委託する=サービスを調達する場合も
模倣品や不正再利用品のリスク例(想定)1
製品の設計時に素材や部品を厳選し、サプライヤーも指定したとしても、コモディティ部品まですべてを管理することは難しそうです
模倣品や不正再利用品のリスク例(想定)2
消耗部品などにコンパチ品が出てくる場合、例えば半導体製造装置の消耗部品
模倣品や不正再利用品のリスク例(想定)3
最終製品責任者が、外部に部品の生産を委託する場合、例えばスマホ
模倣品や不正再利用品のリスク例(想定)4
最終製品責任者が、外部に部品の生産を委託する場合、例えばブランド品のカバン
(参考)海外における模倣品のリスク例1
米国では、2010年前後に、防衛装備品について、模倣品が原因と疑われる検査エラーが起きて問題となりました
- 模倣品、2010年前後に aviation systemなどで顕在化
- 2007年に海軍が模倣品に対する調査を商務省に依頼し、2010年1月に深刻な状況が発表された
- 2011年11月の上院公聴会の記録によれば、
- https://www.govinfo.gov/content/pkg/CHRG-112shrg72702/html/CHRG-112shrg72702.htm
- 航空機の aviation systemを製造する、米 L3 Display Systemsが、LM社の C-130Jや、伊 Alenia Aermacchi社の C-27Jに使用される avionics displayを製造、この会社で2010年11月の検査で、同製品のチップ不良率が 8.5%→27%に上昇、軍用の実機でも同月に一度、エラーを起こし、検査をしたところ、メモリーチップが偽造品と判明
- In November 2010, L-3 Display Systems detected that their failure rate for a chip installed on display units had more than tripled, from 8.5 percent to 27 percent.
- In November 2010, after a part failed on a fielded aircraft, and in internal testing L-3 Display Systems discovered that a memory chip used on its display unit was counterfeit.
- この記録には、他にも事例があげられており、問題の深さがうかがわれます
- SH-60ヘリコプター、P-8哨戒機、ミサイル、電子防衛システムなどでも発見
- 模倣品か、不正再利用品(e-scrap, e-waste)
- また、不正再利用品を新品に見せかける偽造
- ソケットから脱落していた部品もあったという
- 調査合計で、百万点以上の偽物の電子コンポーネント
- 1,800の別々のケースで使用されていた
(参考)海外における模倣品のリスク例2
ヘリコプター墜落事故などのインシデントにおいても、模倣品によるエラーが疑われました
- US(NATO)アフガンでのヘリ墜落
- 2011年6月、米軍(NATO) OH-58 Kiowaヘリコプターがアフガニスタンの Khost郊外に墜落、2人死亡
- タリバンは撃ち落としたと表明したが、状況から見て攻撃を受けたものでは無い(NATOスポークスマンによれば、敵の活動は検知されず、住民の証言で、クラッシュ以前に期待から黒煙が漏れていた)
- 米UTC社の子会社 Goodrich社がエンジン制御部品をロールスロイスに納入し、M-250エンジンに使用、それをベル・ヘリコプター社の OH-58に使用
- その後の報道で、エンジンコントロールユニットに使用されていたマイクロプロセッサー偽物とのこと
- 2005-2012年の間、同社は偽物チップをエンジン制御部品に使っており、そのエンジンが最終的に、OH-58 Kiowaと A/MH-6M Little Bird(MDヘリコプター社)に使用されたとの疑い、しかも Goodrich社が不正を知りつつ、真正性を含む保証書を発行していたとして、2人が詐欺罪で逮捕され、罰金が科せられた
- その後、2017年の報道によれば、問題のマイクロプロセッサーは米国内の Rhode Islandの販売者から仕入れたが、その販売者は中国と関係していたという
- なお、偽物のプロセッサーが直接の事故原因と断定されたわけではない(諸般の事情があると想像される)
- https://www.securingindustry.com/electronics-and-industrial/us-aerospace-firm-pays-to-settle-fake-electronics-probe/s105/a6509/
- https://www.reuters.com/article/us-utc-settlement/united-technologies-resolves-u-s-counterfeit-parts-probe-for-1-million-idUSKBN1ED292/
- 以下は、犠牲者とインシデントの状況 (Source: www.armyaircrews.com/kiowa.html)
(参考)海外における模倣品のリスク例3
そのほかの事件、調査、指針
- インドで、LM社製 C-130J輸送機が墜落
- 2014年3月、Gwalior city近郊で墜落、5人が犠牲に。ブラックボックス、ボイスレコーダーを含めて、ダメージがひどく、十分な原因究明はできなかったが、前記の、米 L3 Display Systemsが製造して C-130JやC-27Jに使用された avionicsのチップの真正性への疑い、その影響という考え方があった
- http://www.akshardhool.com/2014/04/is-counterfeit-electronics-reason-for-c.html
- 2014年3月、Gwalior city近郊で墜落、5人が犠牲に。ブラックボックス、ボイスレコーダーを含めて、ダメージがひどく、十分な原因究明はできなかったが、前記の、米 L3 Display Systemsが製造して C-130JやC-27Jに使用された avionicsのチップの真正性への疑い、その影響という考え方があった
- そのほか、防衛装備品への浸透の調査、対抗する政策
- Defense Logistic Agencyの Defense Standardization Program Journal 2013年10-12月号によれば、国防総省もサプライヤー認定や模倣品対策のいくつかの対策を実施とのこと
- https://www.dsp.dla.mil/portals/26/documents/publications/journal/131001-dspj.pdf
- DLAが装備品調達について、指針や規則を色々と出しており、サプライヤーのアセスメントと認定、指定、また、模倣品対策についても関連産業に方針を出している。これが、米国半導体工業会(SIA:Semiconductor Industry Association)に対しての偽造防止の要請となり、さらに、SEMI(Semiconductor Equipment and Materials International)への要請になっているとみられる
- 米国半導体工業会(SIA)が2013年に発表した方針
- “WINNING THE BATTLE AGAINST COUNTERFEIT SEMICONDUCTOR PRODUCTS-A report of the SIA Anti-Counterfeiting Task Force” (August 2013)
- https://www.semiconductors.org/wp-content/uploads/2018/06/SIA-Anti-Counterfeiting-Whitepaper-1.pdf
- Defense Logistic Agencyの Defense Standardization Program Journal 2013年10-12月号によれば、国防総省もサプライヤー認定や模倣品対策のいくつかの対策を実施とのこと
模倣品のリスクは今日さらに増す
これまで、模倣品による被害の歴史について、主に複雑性、公共性の高い、ハイテクや防衛などの情報を引用してご紹介しました。しかし、今日でも、様々な模倣品が蔓延っており、それによる事故も起きます
今起きている個別企業の事例については、ここで安易な引用は差し控えますが、時計、バッグや衣料はもとより、自動車部品、自転車、ヘルメットやスポーツ用具、衣料品、コンタクトレンズ、家庭用品や健康食品でも、模倣品の問題は根深く、「模倣品&事故」「counterfeit/accident」などでWebを検索されれば、問題が溢れかえっていることが分かります
ここで、これまでご紹介した模倣(不正な作業も含む)リスクのモデル化をしてみましょう
製造、出荷、運用までの管理システムはある
製造業では、製品ライフサイクルを通して、その工程自体の情報化は進んでおり、概略、以下のようなシステムを使用しています
製造のみならず、出荷、運用、保守に至るまで、ある程度データベース化されています
しかし、一つ一つが独立したベンダーの提供によるシステムとなれば、システム間の情報連携が常に課題となり、そうした中で、模倣品を巡るリスク対策が、今日でも、常に必要になります