ブロックチェーンを物的資産やデジタルアートの証明書として利用し、新たな流通システムを作る試みが広がっています。一般に、権利証や権利書は不動産を主に指しますが、ここでは、広い意味で、物的資産の所有権や、コンテンツの使用権の証明書を総称して、権利証と呼称いたします。ブロックチェーンを利用する意義を検討して、いくつかのユースケースもご覧いただきます
1.所有権の証明、権利証としてのブロックチェーン
ブロックチェーンを権利証に利用する意義
ブロックチェーンをデジタルアートの権利証や真贋証明に利用することが広まりつつあります
- デジタルアート、しかもコピーが存在しない唯一無二の作品か、コピーが制作側によって限定された作品について、その権利証をブロックチェーン上でトークンとして作ると、そこにアートのファイルを開く(鑑賞する)ための鍵を埋め込むことが出来て、流通(売買)もできます
- その権利証が無いと、鑑賞できない、あるいは鑑賞できてもアートを所有していない状態です
- デジタルアートならば、所有者が画面に表示しているときに、別の人がカメラで撮影して、コピーを作れるでしょう、と思われるかもしれません。あるいは拡大表示して、一(いち)ビットづつ色を分析して、レプリカが作れるかもしれません。しかし、権利証が無い、製造元のサインが無いので、あくまでも模倣品にすぎないと分かります。原本ではないので、原本としての価値はなく、勝手にそれを販売すれば、著作権法にも触れます
- 証書だけではなく、それに紐づくアート作品がペアで存在するので、証書と作品側をペアで流通させるか、作品をどこかに保管する、信託する、という仕組みを作る必要があります
- ブロックチェーンのトークンを流通(売買)させると、過去の権利移転の情報が芋ずる式につながっており、遡って調べることが可能です
同じ要領で、物的資産の権利証として利用することもできます
- これまでも、金など貴金属、原油・その他の商品など、物的資産の取引をデジタルで行う市場があります
- 株式やその他の証券、信託など金融資産の取引のデジタル化は進んでおり、その売買契約書が、デジタル化されたトークンと同じ機能を果たしてるとも言えます
- ブロックチェーンで物的資産の権利証、トークンを作る意義は、ブロックチェーンの暗号資産の取引と組み合わせることが容易であり、また、スモールスタートでき、P2P(ピア・トゥ・ピア、1on1、相対)取引が容易という点にあるでしょう
- 金の取引や、酒の権利証に、ブロックチェーンを利用する実例もあります
- 物的資産では、その物理的な物自体の保管が重要となります。経年劣化するものもあるので、食品のように、保管、管理に色々な条件が加わるものは、それを誰が行うのか、信頼できるのか、物のほうが盗まれないか、定期的な検査が必要かなど、決めるべきことがあります
物的資産の真贋証明・権利証、ユースケース 1
あくまでも想定ですが、仮に、ゴッホの絵画「春のニューネンの牧師館の庭」のような唯一無二の作品について、ブロックチェーンによる真贋証明、所有権証明を行うことの意義を考えてみましょう
この作品は、実際に、新型コロナウイルスの影響で閉鎖中であったオランダの美術館から盗まれて、その後犯人が逮捕され、2023年9月に見つかったものです
- このゴッホの絵画とペアで、ブロックチェーンによる真贋証明のトークンがあり、美術館が両方を所有していることを公表していたと想定してみましょう
- 絵画の実物と、真贋証明=所有権を示すトークンの両方を盗まなければ、ブラックマーケットで売るにも、窃盗犯は真贋証明ができません
- 真贋証明トークンだけをまず盗む場合はどうでしょうか
- ブロックチェーン基盤の仕組み上、窃盗犯も、ブロックチェーン上でアカウントを持ち、美術館が持つトークンを自分のアカウントに移転する必要があります
- 窃盗犯は、銀行の休眠口座のような、休眠アカウントを多数、買い漁っておいて、リアルな自分が突き止められないようにロンダリングするでしょう。それでも、トークンは、そのブロックチェーン基盤の中にとどまります
- そのブロックチェーン基盤上で、トークンの移転先のアカウントまでの足取りは突き止めることが可能です
- ただし、そのアカウントをリアルの誰が今、使用しているかは即座には分からないので、捜査の必要があります
- リアルの絵画だけを盗む場合はどうでしょうか
- 真贋証明のトークンは、美術館に残っているので、窃盗犯がブラックマーケットで絵画を売りさばこうとしても、模写かもしれないと疑われるでしょう。また、買い手としては、闇の市場であろうとも、転売に苦労すると分かります
- 窃盗犯が自家使用で満足することはあっても、ならず者同士が、真贋証明トークンが存在するはずの絵画でトークンが得られず、リアル絵画だけの状態で、個人的信用で巨額の絵画を売買できるでしょうか

物的資産の真贋証明・権利証、ユースケース 2
金(きん)や宝石などの所有権をトークンとしてデジタルで発行し、そのまま流通したり(対価はリアルマネーでも何でも、当事者次第)、発行者に返却して現物を受け取ったり、あるいは、その現物を換金したということで、リアルマネーの振込を受けるような仕組みが作れます
- 金取引について、以前から、実物をどこかに寄託し、所有権を売買するシステムがありますが、近年、ブロックチェーンを使った新たなデジタル化の試みも見られます
- 宝石についても、ダイヤモンドの発掘、加工から製品販売に至るまで、ブロックチェーンで鑑定書を作り、トレーサビリティを実現するサービスもあるようです
- 以下は、簡単な原理を図にしたものです

デジタルコンテンツの権利証と鑑賞権(鍵)
著作物などの閲覧権を定めて、その真贋証明、権利証、ファイルを開ける鍵のようなものをブロックチェーンで作り、鍵を貸し借りして、友人にも鑑賞してもらうような仕組みもできます
レガシーなメディアでは、例えば、CD、DVD、ブルーレイなど、現物の貸し借りが出来ました。デジタルコンテンツの世界でも(ムービー、ドラマ、音楽など)、その鑑賞の権利を鍵にして、コンテンツの貸し借りをするという仕組みです

権利証、鍵の対象物を洗い出してみる
組み合わせ的に洗い出してみましょう。権利証に対して、その対象物が変化、消滅するリスクが高いものは、取引の都度、現物の検査が必要となり、高コストと思われますが、市況変動が大きければ、投機的なチャンスもあります

権利証、鍵の対象物を洗い出してみる 2
対象物が不滅のものの場合です。不滅であっても、劣化するものはあります
