3.ブロックチェーンでマルチラテラルネッティング
相殺決済の種類
相殺の仕方と、決済尻の処理方法の掛け算分だけ、オプションがあります
統括会社、決済親の無いネッティングは新しい発明です。後ほど説明します

1. バイラテラルネッティング
ここから、主要なネッティングのユースケースを紹介します
バイラテラルネッティングは、単に2社間で、債権債務を合算、相殺します
わざわざブロックチェーンの債務証書を起票しなくても、帳簿を見て、同じ決済日の売掛、買掛を計算して、差額を振り込んでもいいでしょう。ペイメントネッティングとも言います
一方、ブロックチェーンの債務証書にして決済日まで溜めておき、決済日にシステムで消しこんで、決済尻を再度、短期の流動性貸付、借入のような債権債務に更改する仕組みも作れます。統括会社がグループ会社の預かり金をもってキャッシュマネジメントをしているような場合です

2.1 統括会社に対するマルチラテラルネッティング
前の章でもご紹介した、センターを入れたネッティングです
グループのキャッシュマネジメントも行う統括会社に対するネッティングを行い、決済尻を統括会社への預け金の増減で完了する例です

2.2 統括会社無し、決済親無しマルチラテラルネッティング
ブロックチェーンの債務証書が溜まった後、決済の期日に、合算、相殺を計算上の仮親に対して行い、最後に仮親を引き抜くという、「親無しネッティング」です
統括会社などが決済親になる場合は、Central Counterparty (CCP)と見做され、一定の管理責任が科されて規制があります
サプライチェーンには、グループ外企業との取引も多々あり、特定のグループ金融会社に外部の者が預け金を置きたくない、取引が見えてしまう、という抵抗もあるでしょう
親無しネッティングでは、システムが自動的に、当事者だけの最終決済尻を計算します

決済親無しネッティング、仮親を引き抜くロジック
ブロックチェーンの債務証書(transaction)の送付をグルグル繰り返して、仮親に対する債権債務を消しこんで、当事者だけの債権債務にすることができます(次ページも参照、このロジックは特許となっています)。債務証書は分割して使えます。このことを利用します

決済親無しネッティングのモデル化
これまでは、少ない社数での説明でしたが、企業数が多く、債務証書も膨大となるような実運用でも通用するか、との問いに対して、この仕組みを一般化、モデル化して紹介します
次ページの論理フローと合わせてご覧ください

決済親無しネッティングの消込みのロジック
ブロックチェーンによる債務証書を仮親への債務、債権としたあと、受けと払いの大きいものから相殺して消し込んでいきます。そもそも、仮親は当事者同士の債務/債権関係の中に挿入されたものであり、引き抜けることがこれで分かります

おわりに
このコンテンツでは、ブロックチェーンによる決済システム試案を紹介してきました
- 買掛、売掛に着目して、債務証書の起票と、債務処理による流動化、
- 期日に多数の債権債務をネッティング(相殺)決済する仕組み、
- 特に、新しいアイデアとして、決済親の無いネッティング
このように、決済システムの根幹の所へのブロックチェーンの活用を提示しました
Why Blockchain? とは、よく言われることで、ブロックチェーンでなくてもできるし、すでにシステムはある、と問われるかもしれません
しかし、ブロックチェーンの産業活用を進めて、色々なプロセスにブロックチェーンが使われるようになると、インターオペラビリティの観点で有利になってくるでしょう
また、親無しネッティングは、これまで世の中にありませんので、グループ企業を超えた大きなサプライチェーンの決済や、サプライヤーの中小企業のところ、Deep Tier と呼ばれるところへの信用供与と資金繰り改善にも役立ちそうです
本編は、決済システムの基本部分にとどまりましたが、いずれ、詳細な設計をご覧いただきます
また、これからいくつか、債務証書、債務処理を使ったほかのユースケースを書いてみます
一つの観点は、キャッシュマネジメント、トレジャリーマネジメント、ERPとの親和性です
また、ファクタリング、Deep Tier Financing, Trade Finance(貿易金融)などに活用できそうです
原債務者が信用力のある大企業の場合、その債務証書が分割使用されて広がり、トークン、マネーのように振る舞うかもしれません
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